相撲を知らない日本人はいないと思いますが、実際に相撲がどんなものなのか知っている人は意外に少ないかも。
特に、テレビで中継される本場所以外に行われている「巡業」っていったい何だろうと思ってる方もいらっしゃるのでは?
もうだいぶ前のことになるのですが、実はわたし、一度だけ巡業を見に行ったことがあるんです。
単純に「本物のお相撲さんに会える!」というミーハーな気持ちで行ったのですが、実際の巡業はとっても楽しいエンターテイメントでもあり、神事でもある相撲のほんとの形に少し触れられた瞬間でもありました。
今回は、そんな大相撲の地方巡業へ行ったときに見たこと、感じたことをご紹介します。
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本場所の合間に行われる地方巡業
<冬巡業>12月3日(日)より、冬巡業がはじまります。https://t.co/c1UXpx8lDP #sumo pic.twitter.com/vwOzxX8rpY
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年12月1日
テレビで中継されたり、夜のスポーツニュースでその日の結果が取り上げられる相撲の試合のことを「本場所」といいます。奇数月に15日間、年間6場所が開催され、その勝ち負けによりお相撲さんの優劣が決まります。
それに対し、本場所の合間に行われるのが「巡業」。日本のあちこちへ(時には海外へも)お相撲さんたちが出かけていって、本場所でも行われるいろいろなことを実演します。
本場所は15日間ですが、巡業は1日だけ。でも会場には実際に土俵が作られ、幕内力士の取り組みや横綱の土俵入りもあり本格的です。
会場に一歩入ればそこは相撲ワールド
<秋巡業@横浜場所>お客様と握手する、豪風・隠岐の海、千代大龍・千代翔馬。 #sumo pic.twitter.com/DlPSdWNEo9
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月6日
さて、巡業は本場所などで行われていることを1日でコンパクトに見せてもらえるものなのですが、見られるのは取組(試合)のみにあらず。
お相撲さんの世界がそのまま地元にやってきたようなミラクルワールドなのです!
まず、会場に入ってびっくりするのがお相撲さんたちがウロウロしていること。
巡業の会場は、ホールなどの大きくて豪華な会場ではなく、ほとんどが地元の体育館など。いつもの市民体育館の入り口を入ると、廊下でお相撲さんや親方が目の前を普通にウロウロ…。
相撲の中継やスポーツニュースで見ていたお相撲さんたちが、本場所のときとは違うリラックスした表情で歩いているのを見ていると、なんだか現実のこととは思えません。
そして、ラフな服装でウロウロしている親方たちも、引退した元お相撲さん。「ああ、昔好きだったあの力士が目の前に…!」と大興奮です。
<秋巡業@広島市>握手会の様子。嘉風、正代、玉鷲。#sumo pic.twitter.com/yW4HFEs91u
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月31日
また、入り口付近では、そのとき人気の中堅力士が2人くらいスタンバイしていて、お客さんと写真を撮ったりしています。衝撃のリアル等身大パネルですよ!
お相撲さんだけでなく、行事さんや呼出さんなどのスタッフの人もウロウロ。思わず「テレビで見たことある人…!」と舞い上がってしまいます。
実物のお相撲さんはデカイ!そしてイケメン!
<秋巡業@枚方場所>子どもとの稽古。北勝富士、魁聖。 #sumo pic.twitter.com/s89DGJZij5
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月20日
お相撲さんというと、大きい人であることは常識ですが、実際に間近で見てみるとほんとにデカイ!
特に大きなお相撲さんのそばでは、何人もの子どもたちが「怖い~!!!!!」と泣き叫んでいます。冗談でなく泣き叫んでいます。なまはげみたいに脅してるわけじゃないのに、その存在だけで子どもを怖がらせるお相撲さん。すごいです。
巡業での山稽古。https://t.co/k7oNJuCu1I pic.twitter.com/JNGWCqx19X
— 元相撲デスク・佐々木一郎 (@Ichiro_SUMO) 2017年4月16日
また、意外と言うと失礼かもしれませんが、お相撲さんって実物はけっこうかっこいいんです。
もしかすると、「力士=太ってる人」と思われている方も多いかもしれませんが、お相撲さんたちはみなさんプロのアスリート。もちろん体格は大きいですが、筋肉に張りがあってお肌もつやつや。そして大きいのに動きが軽やか!
<夏巡業@佐渡市>ポーズを決める、錦木と千代の国。 #sumo pic.twitter.com/2pM9yR5FXR
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年8月5日
それに、力士はそのほとんどが20代の若いお兄さんたちです。テレビで見る試合のときと違って表情もやわらかで、あの人イケメンだったんだなあって思う力士もたくさん。
そして、巡業ではいろいろなアトラクションの前に、力士たちがあちこちで準備体操をしたりしています。
<秋巡業@高山場所>ウォーターバッグを持ち上げる豪風、腹筋ローラーでトレーニング中、勝武士。 #sumo pic.twitter.com/imyTrBincX
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月17日
わたしは、かなり後ろのほうの席のチケットを購入していたのですが、体育館の壁際でたくさんの力士たちが柔軟体操をしているところを間近で見ることができました。
お相撲さん同士の会話なんかも聞こえてきて、体育会系の上下関係があるみたいでちょっとおもしろかったです。
<秋巡業@津場所>松鳳山の首をつかむ、正代。 #sumo pic.twitter.com/TAlVc3Uh9O
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月18日
数々のアトラクションで飽きさせない構成
<秋巡業@岸和田場所>呼出 重夫による櫓太鼓打分、床桑による髪結実演(モデル栃煌山)、横綱白鵬綱締実演。#sumo pic.twitter.com/qslf5Vj7uX
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月22日
さて、巡業にはお決まりのアトラクションがいろいろ準備されています。
NHKの中継の終わりのときなんかに流れる「トントントトントトン…」という太鼓の高い音。
あれは、呼出さんと呼ばれる相撲の裏方さんが、高い櫓にのぼって打ち鳴らすお知らせの合図。「今から相撲が始まりますよ~」と遠くの人へ知らせる、今で言うチャイムやサイレンみたいなものです。
そういう普段なかなか見ることのない相撲の伝統的な技術を目の前で演じてもらえます。他にも、床山さん(髪結いさん)の実演や、横綱の綱を締めるところとか。もちろん横綱の土俵入りも。
お相撲ってスポーツでありながら、日本の伝統的な技術の継承も合わせてしているんだななんて思ったり。
<秋巡業@鳥取場所>子どもを振り回す、朝乃山。 #sumo pic.twitter.com/54uNLFR50X
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月26日
それから、これもテレビでよく見る光景ですよね。大きなお相撲さんと子どもが相撲をするの。
お相撲さんはほんと軽々と子どもたちを持ち上げちゃって、まるで空のペットボトルを振り回してるみたいです。これも実際目にするとびっくりですよ。
そして、一番楽しかったのは「しょっきり(初切)」というだしもの。
相撲のルールの中にはやってはいけない反則技がいろいろあって、それをコントっぽくあれこれ実演して見せるというものです。
2人のお相撲さんが、反則だらけでなかなか成立しない取組を土俵上で演じるのですが、これがすごく楽しいんです。これはまさにショーですよ!
<秋巡業@長野場所>高三郷と勝武士による初切り。 #sumo pic.twitter.com/G0VZ0aMHlL
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月13日
大きな体のお相撲さんがお互いに馬跳びをしてみたり、土俵上で追いかけっこをしてみたり、とってもコミカルで身軽!
息もピッタリの2人のお相撲さんの軽妙なやり取りに、お客さんからも自然と笑い声や拍手が生まれます。
<夏巡業@長岡市>初切の様子、高三郷と勝負士。初切とは2人の力士が、相撲の禁じ手や珍しい決まり手を土俵上でコミカルにわかりやすく説明する演目です。#sumo pic.twitter.com/8BhPlDEUwp
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年8月7日
取組のときはお酒を飲んではいけないんですが、それを表現するために缶ビールをプシュッとしてまるでお茶でも飲むようにどんどん飲んだり。
わたしが見たときは、前のほうにいたお客さんが缶ビールをケースで持ってたんですが、それを見つけたお相撲さんが、段ボール箱からどんどんビールを取っては空け、取っては空けしていました。
正直見る前は、型の決まっている「しょっきり」ってベタな演目だなと思ってたのですけど、実際見てみると全然違って、「ああ、この二人、一流のエンターテナーなんだわあ。」と感動しました。
もちろん巡業では、お相撲さん同士のけいこ風景を見ることができますし、終盤では練習用のまわしから色とりどりの本番用のものに付け替えたお相撲さんたちの取り組みも。
<夏巡業@仙台市1日目>髙安と阿武咲の稽古。 #sumo pic.twitter.com/tVsnjdu98K
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年8月15日
1、2時間のショーではなく、朝から夕方まで一日中楽しめる巡業は、まるで相撲の世界がそのまま遊びに来てくれたような、夢のような世界です。
<夏巡業@渋谷青山学院>カメラマン千代丸の姿に周囲が和む。 #sumo pic.twitter.com/l7EvDzFZ3s
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年8月12日
<夏巡業@お台場二日目>お客様のお子さんとふれ合う大砂嵐。 #sumo pic.twitter.com/1ZBgxNkxCw
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年8月25日
町へ幸せを運んできて、そして去っていくお相撲さん
<巡業の出し物>巡業では、巡業ならではの出し物があります。相撲甚句は、独特の節回しでうたいます。中央は、琴仁成。#sumo pic.twitter.com/fyArehtxow
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2014年8月12日
最後に、お相撲さんが何人かで土俵に上がり、相撲甚句という独特の節回しの歌が歌われます。
お相撲さんは、相撲教習所という学校で全員が相撲甚句を習うそうですが、その中でも歌のうまい人がいて、中には相撲引退後歌手になる人もいるくらい。
巡業では、そんないい声をしたお相撲さんたちが、「どすこいどすこい」と合いの手を入れながら何曲か歌ってくれます。
そして最後に歌われるのが「当地興業」と呼ばれる歌。会場となった地名をアドリブで盛り込みつつ歌う歌の内容はこんな感じ。
この町に相撲を呼んでくださったみなさん、そして見に来てくれたみなさん。
名残惜しいですが、そろそろお別れしなくてはいけません。
僕たちが帰った後も、みなさんが幸せに暮らせるようにお祈りします。
僕たちは、これからまたあちこちまわって修行して、立派なお相撲さんになります。
そして、またここに戻ってくることができるのなら、
そのときはまたよろしくお願いします。
また会えるのかな、会えないのかな、寂しいな。
少し切ない歌詞の歌で、しんみりすると同時に、ああ、今日一日、楽しい日だったなとしみじみうれしくなります。
今は、思い立てば東京にでも自由に相撲を見に行くことのできる時代。でも、少し前までは、生まれた場所から出ることなく過ごす人が日本中にたくさんいたはず。
そんな日本のあちこちの村や町に、お相撲さんたちが訪ねてきて楽しい気分を振りまいて、そして帰っていき、また次の日からは日常がずっと続いていく。
でも、お相撲さんが幸せを祈ってくれた日常は、それまでの日々とは違うものになるのです。
<秋巡業@金沢場所>バスに向かう、炎鵬。#sumo pic.twitter.com/kZek1BLpT6
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月16日
<秋巡業@バス出発>バスから手を振る豪風、玉鷲、呼出し克之、重夫。 #sumo pic.twitter.com/I1fvD1zFGK
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月5日
以前、フランス巡業の際に、フランスの人たちが相撲取りのことを「神様」と呼んでいるのをテレビで見たことがあります。
そのときはその「神様」という表現がよくわかりませんでしたが、実際に巡業を見に行って、相撲甚句を聞いて、そして夕焼けの中、お相撲さんが手を振りながらバスで去っていくのを見送りながら、「ああ、今日は神様の世界が町に来ていたのかなあ。」なんて大袈裟ですが思いました。
<秋巡業@金沢場所>バスからお客様に手をふる、阿炎。一行が乗ったバスはお客様に見送られながら次の巡業地に出発しました。#sumo pic.twitter.com/0LRg13Ilsh
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年10月16日
日本古来の武道でもあり、五穀豊穣を祈る神事としての側面もある相撲。地方を巡る巡業は、そんな「神様」、というかぽっちゃりしてニコニコしている「妖精」が、町に幸せを運んできてくれる特別な一日なのかな、と思います。
巡業のスケジュールなどは相撲協会の公式サイトで
地方巡業のスケジュールは相撲協会の公式サイトで確認することができます。
だいたいの巡業場所は、季節によってきまっていて、暖かい時期は北のほう、寒い時期は南のほうで行われます。
チケットは、その巡業場所によって異なりますが、最近はネットで購入できる場合もあるみたいです。ちなみに、わたしは地元の教育委員会に買いにいきました。
本場所とは一味違う巡業、もしお近くにお相撲さんたちが行くことがあったら、一度ぜひ見に行ってみてくださいね。