日本酒の酒造会社が一般向けに行っている「酒蔵見学」。
いわゆる工場見学の部類に入るものかと思いますが、一口に酒蔵見学といっても実はいろいろな形態があります。
実際の酒造りを見学するものや、酒造りの工程や道具などを展示した展示施設を見学するもの、はたまたガイドさんに案内されて一通り施設をめぐったのち、ショーやイベントを楽しみながら日本酒を試飲するものなど様々です。
今回はそんな酒蔵見学の中でも文字通り「酒蔵」を見学することができる姫路の酒造会社「灘菊」についてご紹介します。
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姫路市手柄にある酒造会社「灘菊酒造」
灘菊酒造は兵庫県姫路市手柄にある酒造会社です。
場所はこちら。
近くには、1966年の姫路大博覧会の会場ともなった手柄山遊園があります。
当時は姫路駅からモノレールが通っていましたが、廃線となった後、その橋脚や古い駅などが今もあちこちに残っていて、廃墟・廃線マニアや近代遺産のお好きな方には有名な場所です。ただし、そろそろその遺物もなくなりつつあるので気になる方はお早目の訪問をお勧めします。
姫路駅から山陽電鉄で一駅の「手柄駅」はこれまた昭和の味わいを感じることができる駅です。
最近、都会の鉄道はどんどん高架化されており、比較的街中であるにもかかわらず電車が地面を走っているのは山陽電鉄ならではですね。
そんなレトロかわいい手柄駅からぶらぶら南へ歩いて5分ほど。
「灘菊」の看板とともに、だだっぴろーい駐車場が見えてきます。
「灘菊」は都会の洗練された酒蔵見学とは一味違う
さて、ガイドブックや灘菊酒造のサイトには、本社工場では酒蔵見学やショッピング、趣のあるレストランで食事ができると案内があります。
なんとなく整備された観光施設を想像して訪れたところ、看板以外にはただただ駐車場が広がり、そしてその奥には工場があるのみ。レストランやミュージアムショップ的な建物はどこ???
いくら辺りを見渡してもそれらしい建物はなく、しかしスマホでgoogleマップを確認するも場所に誤りはない様子。
仕事中に申し訳ないけどこれはもう工場の人に聞くしかない、と人の気配を探して工場の入り口らしき場所へと向かいます。(上の写真でいうところの中央の奥まった辺り)
酒屋らしく杉玉が吊るしてある会社の入り口らしきところでオドオドしていると、従業員さんらしき方が。
すかさず捕まえて「酒蔵見学をしたいんですけど…」と尋ねてみると「あ、どうぞどうぞ」と…。
なんかすごく入りにくいんですけど!w
「灘菊」の酒蔵見学は「酒蔵」を「見学」するものである
神戸市灘など有名酒どころの酒蔵見学に飼い馴らされた身には少々衝撃でしたが、でもそういえば酒蔵見学ってお酒工場の見学だもんね、と改めて思いなおし杉玉の下をくぐって進んでいくと、また少し期待を裏切る光景が待っていました。
両側には古い木造の建物、足元は石や板を組んでできていて、一気に明治・大正時代にタイムスリップしたかのようです。
それもそのはず、灘菊酒造の2,700坪の広い敷地には、明治43年創業当時の木造の酒蔵などの建物が残っていて、「酒蔵見学」とはまさに工場の敷地の中にお邪魔してその酒蔵を間近で見ることができるものなのです。
先の写真の左の建物は灘菊のお酒を買うことができる売店で、右手の建物は事務所やお酒の瓶詰場として今も実際に使われています。
趣のある通路を進み、突き当りを右へ進むといよいよ酒蔵です。
現在は奥の赤い建物でお酒が造られており、実際の酒造りは衛生上見学することはできません。ですが、今も残っている7つの木造の酒蔵をゆっくり巡りながら、当時の酒蔵の活気に思いを馳せ、その風情を楽しむことができます。
適度なほったらかし感が心地よい見学ルート
団体さんの場合や、個人で訪れた場合でも希望すれば案内を頼むこともできるようですが、基本リーフレットを渡された後はそれぞれ自由にぶらつきます。
7つある酒蔵のうち、中へ入ることができるのは2カ所。他は事務所などで業務で今も使われていたり、団体客向けの食事処として利用されているため入れません。
入ることができる蔵の中には古い酒造りの道具などが展示されています。
簡単な酒造りの工程などのパネルの展示もありますが、大手酒造会社の施設にある、まるで小さな博物館のような展示と比べるとあくまでも素朴なものです。
ですが、長年実際に使われてきた、一部は今も使われている酒蔵の立ち並ぶ敷地内を自由にぶらぶらと散歩できるのはなかなか他では得難い体験です。
中には入れませんが、現在の仕込み蔵もすぐそばまで行くことができます。
今の酒蔵は4階建てですが、古い建物なので実際は8階以上の高さがあるそうです。これはこれで昭和建築の風情を感じます。
今の仕込み蔵のすぐそばにある貯水タンクでしょうか。酒造りに水は欠かせませんものね。
「灘菊酒造」の歴史を自然と感じられる酒蔵見学
明治43年に創業し、地酒メーカーとして酒造りを続けてきた灘菊酒造は、昭和30年代辺りから生産量を増やして規模を拡大し、またそのころから繁華街に飲食店をオープンさせるなど「お酒と食文化のハーモニー」という今の会社のモットーの基礎を築きました。
その後、平成に入ってから木造の酒蔵の一部を公開し、その一棟を酒蔵レストランへと改装したり、また、酒造りに関しては地元の兵庫産・播磨産のお米にこだわった小ロットの生産を、女性の杜氏さんが中心となり手作業で行っています。
「姫路の地酒メーカー」という特色を活かした経営をされているんですね。
普段の生活の中で、町なかにある工場の前を通りかかったとき、ふと、この中ってどんな風になっているのかな、中を覗いてみたいな…と思うことはありませんか? 灘菊の酒蔵見学はまさにそんな気持ちを叶えてくれるようなものでした。
明治・大正・昭和初期の造り酒屋の風情を感じる木造の酒蔵、昭和の高度成長期の勢いと華やかさの名残を感じる鉄筋コンクリートの酒蔵、そして古い酒蔵を改装したレストランで頂くお酒にちなんだ料理など。
知らず知らずのうちに会社の歴史と風土を感じることができてしまう、ちょっと地味ですがおすすめの姫路の観光スポットです。
酒蔵レストランのことについてはまた別途ご紹介したいな、と思います。